北海道大学病院内科Ⅰ(第一内科)

12年目 開業医 西川 就

2012年度 インタビュー

12年目 開業医 西川 就

内科I(第一内科)キャリア 西川 就
※本ページの内容は、2012年にインタビューした時点のものです。

略歴

北大病院内科I(第一内科)出身 白井真也 1994年 札幌西高等学校卒業
2000年 北海道大学医学部卒業
2004年 第一内科入局
2006年 札幌市内 在宅医療専門クリニックにて勤務
2008年 さっぽろ在宅医療クリニック開業

ジェネラリストを目指したい。だから第一内科を選びました。

第一内科を選んだ理由をお聞かせください

医者に対しての具体的なイメージはなかったのですが、困ったときにはいつでも相談できる「町のお医者さん」のような「ジェネラリスト」になりたいと思っていました。
私の場合、4年間研修をして、内科以外にも外科や麻酔科も回りましたが、最後に見渡したとき、もっともジェネラリストであるのが第一内科だと思いました。第一内科は専門家でありながら全身を診られる科だったので、自分のイメージにぴったりでした。

「外来」と「入院」の間の患者さんが、安心して自宅療養できる環境を。

在宅医療について教えてください。

内科のお医者さんで言えば、診療をするための「外来」と、大きい病院での「入院」があります。一般の方は、軽症だと外来、重症だと入院、というイメージをお持ちだと思います。その「外来」と「入院」との間の距離が実は遠いのです。例えば、脳梗塞で入院した患者さんで、足が麻痺して不自由だけれど、身体的には落ち着いていて内服薬を飲んでいれば安定している。そういう方は今までのしくみでは、介護タクシーで無理して外来に通院するか、老人病院等に入院するかのどちらかになってしまいます。その2つの選択肢しかないのです。それはちょっと違うのではないかと思いました。「外来」と「入院」の中間におられる患者さんに対し、自宅を訪問して診療し、健康維持の手助けをするサービス。それが在宅医療です。

在宅医療を受けるには、どのような手続きが必要ですか?

大体は病院から、退院される患者さんについて「通院は大変だから定期的に身体状況を診てほしい」という相談があります。その後、患者さんと、病院、ソーシャルワーカーさんとカンファレンスをして、我々がご自宅に伺い外来の代わりとなって診察することをご説明します。 患者さんは自宅にいることができるし、病院は安心できて、私たちは在宅診療ができる。それぞれのメリットがあるのです。
ただ、入院とは違うので、急に体調が悪くなったときにどうすればよいのかは事前に決めておきます。私どものクリニックでは、24時間365日電話対応しています。入院しているときのナースコールと同じですから、ご連絡いただければいつでも相談にのることができます。

専門的に在宅医療をしている病院は、どのくらいあるのでしょうか。

厚生労働省では、在宅医療を推進する方向で動いています。札幌ではクリニック10,000軒のうち、在宅療養支援診療所は100軒ほどあります。ただ、私どものように在宅医療を専門でやっているところは10軒程度だと思います。
今、私どもだと70人ほど診ているのですが、どうしても重症の方が多くなってしまいます。「ちょっと足腰が弱いので診に来てほしい」という方はほとんど受け入れができていません。在宅酸素などの機器をつけていたり、色々な病気があるという方が多く、今は予約の枠がいっぱいなので、重症の方でも下手すると1ヶ月くらいお待ちいただくことになってしまいます。もう少し在宅医療をする病院が増えるとよいですよね。

患者さんとの診察時間がとれるのが、往診のよさです。

在宅医療の道を選んだきっかけは何でしょうか。

院長第一内科に在籍していたときに、在宅医療をやっているクリニックにお手伝いに行っていました。週に一回だけ往診していたのですが、そこで往診のよさを実感しました。それは患者さんとの時間がとれるというところです。
外来だとよく揶揄されるように、3分~5分程度しか診察時間は取れません。私はそれでは正直物足りないと思っていました。また、一日外来をやっていると、1人くらいは重症の患者さんが見えます。でも変な話ですが、外来の診療費は1時間で軽症の方を5、6人診るのと、重症の人を1人診るのとでは、圧倒的に軽症の方を診る方がコスト的によい仕組みになっています。また、患者さんを待たせてしまうことを考えると、患者さんにとっても負担です。要するに外来のシステムは、重症の人を対象としていないのですね。でも、それはちょっと違うじゃないですか。
その点、在宅医療だと1人あたり30分~1時間くらいの枠を割けるような診療報酬が設定されています。そのため、ある程度重症の患者さんでも余裕を持って接することができます。また、患者さんや周りのご家族の方にとっても、外来の待合室で30分待たされるのと、お家で事前に「30分待ってもらっていいかい」と連絡をもらって30分待つのとでは、気持ちが全然違うんですね。往診の時間はあらかじめ決めてはいるのですが、どうしてもずれてしまいます。でも、文句を言われることはまずありません。お家で待っていてもらうので他のことができますし、「来てくれる」ので安心感があります。在宅を体験したときに「おもしろいしくみだな」と思いました。

退院後の患者さんをあなたに任せれば安心だ、というドクターに。

もうひとつのきっかけは、大学病院で感じたストレスです。
第一内科はジェネラリストである内科だし、全身を診ている内科ですが、大学病院はすごく重症の人だけを診ることが仕事です。そのため専門家の眼を持たなければいけません。僕自身は肺がんグループに入っていて、それはすごく自分の中で大きな経験となっています。ただ、患者さんは、大学病院にかかり、入院して、検査して、化学療法を行い、効けばそのまま続けて、効かなければほかの病院に移る。そのようなシステムになっています。つまり、もっとも重くてもっとも医療度が高い部分だけを北大で診て、それ以外の部分はほかの病院にお願いする、というのが基本なのです。もちろん、大学病院はそうでなければいけません。それは大学病院の役割だし、研究する責務がありますからしょうがない。でも、しょうがないと思いつつも、例えば癌や難しい間質性肺炎で患者さんが入院してきて、調子がよくなってきて、転院か在宅医療をお願いしましょうか、というケースがあったとします。でも、「そのあとはどうなってしまったんだろう」と心配になります。お家に帰っていただいたあと、どうしてもすぐに再入院してきたりとか、急変されたり別の病院に転院になりました、ということも実際ありました。元気になっている方も多いのでしょうけれども、それがすごく大きなストレスだったんです。
北大病院では僕の同期にも優秀な先生がたくさんいて、変な話ですけど、僕一人が抜けても北大病院はしっかり動いていくし、北大病院には北大病院の役割がある。その中で、大学病院が「退院後の患者さんをあなたに任せれば安心だ」という人がいれば、お互いに幸せなことかなと思いました。また、私からも「重症で手に負えなくなってきたら、大学に信頼できる先生にお任せできる」という関係を作りたいと思ったのです。

今は「病診連携」と言って、病院と診療所の連携の必要性が説かれていますが、そう強くはなっていないんです。 病院は重症の人、診療所は軽症の人を診るのが仕事なので、その中間がないからです。その中間に在宅医療が入って重症の患者さんを受け持って、すごくよくなったら診療所にお願いするというのがいいんじゃないかな、と思っています。

患者さんからはどのような声をいただきますか?

クリニックこれはとてもやりがいにつながります。私どものクリニックがなかったら入院していたという方ばかりですし、どうしても施設に入ったり入院したりしたくなかった方からは、たくさんの感謝の言葉をいただきますね。また、24時間待機しているので、何かあったときに電話してもらって往診すると、患者さんからは「いやあ、ありがたい、ありがたい」と言っていただけます。いわゆる「モンスターペイシェント」みたいな方は一人もいません。患者さんと接する時間も長いので、患者さんからちょっとした世間話を聞いたりもします。より深く患者さんと関われるというのは、自分の中ではやりがいがある仕事だなと思います。

今、例えば在宅でも「ターミナルケア」と言って、癌の末期の方でホスピスじゃなくて自宅で最期を迎えたい、という患者さんも定期的にいらっしゃいます。そういう方に関われるというのは自分としてもやりがいのある仕事だと思います。

ただ、在宅医療は医者にもそれほど知られていません。お医者さんというのは重症の人を診るのが好きなのかもしれません。それで在宅医療を選ぶ人が少ないのかもしれませんね。
東京では在宅をやっているクリニックがかなり多いのですが、札幌では昔から「越冬入院」という形で冬場は入院する方が多いということもあり、在宅医療が進まないのかもしれません。冬は雪があるから移動時間がかかります。ただ、在宅医療へのニーズはすごくありますね。今はご要望があっても待っていただくことが多く、正直つらいところです。

今後の夢

在宅医療がもっと広まることですね。私自身は自分の患者さんを増やしたいとは思っていません。今だけで十分食べていけますから。ただ本当は入院しなくても済む人のことや、外来にかかりたいけどかからなくて調子が悪くなって亡くなってしまったという患者さんのことをよく聞くんです。そういう場合、お医者さんも在宅のことを知らないし、患者さんもご存じないのです。また、仮に知っていたとしても、任せられる場所がない。今は絶対的に数が少ないんです。在宅医療をやる先生がもっと増えて、量も質もそれぞれしっかりアップして、入院、在宅、外来が3つ分離されて分業された形でスムーズに連携できるようになれば、誰にとっても幸せなことなんじゃないかなと思っています。
国も、入院費と比べれば在宅医療の方が圧倒的に安いので、重症の患者さんで言えば、入院から在宅療養へという流れが加速している時期です。それがうまく結び付けられるようになればいいなと思っています。

今、私はケアマネージャさんや、訪問看護師さんを集めて勉強会を開催しています。在宅医療は閉鎖空間という一面もあり、何をやっているのかわからないという不安な面もありますから、在宅医療の質自体を底上げしていくことが重要になってきます。それが今、自分の理想として行動していることです。こうして取材を受けたり、発表の場を持つようにしているのも、「在宅医療っていいものだな」という理解を広めたいと思っているからです。

患者さんのことがわかるようになりたいなら、第一内科が一番です。

第一内科を考えている学生さんへ

第一内科は全身を診つつ専門を極められるところです。たぶん最初は漠然としたイメージでもいいと思います。
内科のお医者さんという希望するのであれば、第一内科に入って色々なことを学ぶとよいと思います。
その中で、僕のようにちょっとはぐれ者的な、第一内科の関連病院ではないところで在宅医療をやったりする者にも、教授も快く賛成してくれる懐の深さがあります。「消化器のプロになりたい」「膠原病のスペシャリストになりたい」というのももちろんですが、まずは、内科としていろいろなことをしてみたい、患者さんのことをわかるようになりたいという人は、第一内科に入るのが一番よいと思います。そのあと自分のやりたいことが見つかれば先生方に相談していくとよいと思います。